■ MAE today

この欄には当研究所の近況や、今思うことなどを概ね1回/月のペースで気ままに書いていこうと思っています。どうぞお気軽にお読みください。    → MAE board

02.09:まだ夏のようですがやっと次の季節がちらほらと・・・

稲垣先生のこと

この夏のお盆に家の書棚を整理していますと茶色に古ぼけた小冊子が出てきました。それはタイトルが「建築の手仕事」とあり、恩師である稲垣栄三先生の東大最終講義(1987.3.13)の記録で、ちょうど「02.06 ひとりごと」の話にも繋がりそうなので、懐かしさと興味で一気に眼を通しました。

内容は西洋との比較を交え、日本の中世の職人の、特に大工に焦点を当てた手仕事と技術についての考察で、先生らしく簡潔で平易な言い回しの中でその概要を知ることができるものです。
そしてそれは伝統と革新、部分と全体と言った建築の普遍的なテーマを背景にし、現在の職人の問題と建築家の問題とは表裏一体のものでそれぞれの未来のためには、建築の手仕事と言うものをもう一度きちんと捉え直すべきではないか、そう言っておられるように聞こえました。

私の好きな下りは講義最終の次の所です。
「事実、現代の建築を作るプロセスは、最も進んだハイテクノロジーから、中世的な職人の技芸に至るまで、あらゆる段階を全てふくんでいます。しかもそれが今全部生きているわけです。・・・中略・・・要するに過去が否定されて、近代になったのではなく、近代の裂け目から、常に中世的なものが姿を現していると言うことです。」
15年前の記録ですが今でも心の奥に響いてくる言葉です。

先生は昨年3月に他界されました。
東京、大阪と距離はあるものの、いろいろお世話になり仲人までしていただいた先生の事を友人に聞かされるまで全く知らず、半月遅れでご自宅に伺ったあのばつの悪さ、自分の非礼さ。夫人に暖かく迎えていただいた分、よけいに自己嫌悪に陥ったのを思い出します。

何だか今月はしみじみと・・・秋かな。いや、年かな。

02.09.06